らんぷの仕業

s’il vous plait  よろしくお願いします。

「刺青」ただただ若尾文子が妖艶だ。

原作は谷崎だが、大筋の作品は「刺青」ではなく「お艶殺し」である。

 

ただただ美しい若尾文子様。。。こんな女になら殺されても本望と、男なら思う?

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「刺青」の原作を、私は15年位前に在阪の某女優の読書会で(読んだのではなく)聞いている。

さすがに女優。張りと艶のある声で滑らかに、情景を想像できるような語りであった。

谷崎の原作の「刺青」のヒロインはまだ15、6歳の小娘である。素足の美しさを彫り師の親方が見初めて、この娘を半ば騙してその背中に女郎蜘蛛の刺青を彫る話である。

親方は娘に2枚の絵を見せる。そのうちの1枚は「肥し」と言う題が付いている。男を肥やしにして美しく咲き誇る美女の絵である。女は親方に言う。「親方、あんたがあたしの最初の肥やしになるんだね」 

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谷崎の上手さを、小説の最初は「娘」と書かれていたヒロインが終盤には「女」と明記されている表現に見て取れる。背中に刺青を彫られたことで小娘から鮮やかに女に変身したのだ。

いかに名女優といえども若尾文子にそれは無理だろう。若尾文子は最初から男を知っている女として登場する。ただし大店のお嬢さんで、世間知らずの面もある。恋仲になった手代と二人で店を出奔するのだが、頼りにした人物に騙されて、手代と離され、自身の背中に女郎蜘蛛の刺青を彫られて芸者に売り飛ばされてしまう。

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しかしヒロインは強い女だ。ここぞとばかりに自分の生命力を開花させて、男と言う男を虜にしてしまうのだ。「私しゃ男を食い物にして生きていくことにしたんだよ」

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男を食い物にして生きていく、つもりが…刃傷沙汰で…登場人物の男のほとんどは手代に殺され、手代はヒロインに、ヒロインは…血まみれで終焉を迎える話である。

原作の「お艶殺し」は知らないのだが、「刺青」の独特の新鮮にして妖艶なストーリーではない。

全編、若尾文子の美しさと肌の白さ(ボディダブルの別人だと思うが)が際立つ(言い換えればそれしか印象に残らない)映画だった。しかし、鑑賞者である私は今や、当時の若尾文子くらいの娘がいる年代の女である。この「息をするように平気で嘘をつき、他人の夫や恋人をいとも簡単に奪いそうな悪女、毒婦、妖婦の類の女」は女の敵に他ならず、このヒロインにはあまり魅力を感じなかった。

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 1966年 大映作品