らんぷの仕業

s’il vous plait  よろしくお願いします。

「旅愁の都」 女優はみんな美しい…

昭和30年代のメロドラマは突っ込みどころ満載です。

悪い映画ではないけれど、今では通用しない映画です。

ヒロインはこの人 星由里子。二十歳です。とても綺麗です。

星由里子と宝田明、美男美女のメロドラマです。でも、この映画、突っ込みどころがいっぱい。時代の差か?

そんな訳で女優さんの写真だけ載せます。名優、志村喬上原謙も出てますが。(二人ともあまり良い役じゃない)

 

乙羽信子が経営する喫茶店のウエイトレスとして面接に来た星由里子

当時は面接にこんな格好で現れたんだろうか?真珠のネックレスって。

しかも乙羽信子は近くの建築事務所に勤めている(東京から来た)甥の宝田明を呼び出して、星由里子の履歴書を彼女の目の前で宝田明に見せてるのだ。「この子どう思う?何点くらい?私は90点、ちょっと甘いかな」って。なにこれっ、奴隷市場で奴隷の品評会かよ

今なら許されん光景だ。当時は許されたのか?

ともかく宝田明は清楚でどこか影のある由里子に魅かれた。

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写真が前後しますがタイトルシーン。映画が始まってすぐにこの場面です。私、「あれっ!」と 声を上げそうになったわ。大川(淀川の支流です)やん!中の島公会堂やん!ここは大阪か!(旅愁って大阪のこと?)いえ、主な舞台は大阪で、途中に沖縄観光シーンがあります。

宝田明淀屋橋を渡るシーンが出てくるが、態度が最低最悪。歩きタバコで大川にポイ捨て。ゴラーッ!大川を汚すなボケ

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これはラストシーン。困難な壁はあったけれど、めでたしめでたし。。。ここは(返還前の)沖縄だから宝田明は左ハンドルですが、この男、大阪でも左ハンドルでした。(「憎いあんちくしょう」の石原裕次郎は人気スターの役だから許せるけど、一介の建築士がこんな車に乗れるのか)

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大阪で高級沖縄料理の店をやっている淡路恵子宝田明に、沖縄に出す新しい店の設計を任せている。沖縄料理店なのに1号店が大阪で2号店が沖縄って。。。

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その大阪の沖縄料理店。マダムのパトロン志村喬)は九州の大親分らしい。志村の娘、浜美枝宝田明に気がある。しかし宝田明はその気ゼロ。浜美枝には素っ気ない。心は星由里子に一直線だから。

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↓仲居役のこの女優さん、65歳以上の人ならご存知のはず。

この映画の翌年は成瀬巳喜男の「放浪記」でヒロイン林芙美子高峰秀子)が働くカフェの若い女給役でワンシーンだけ出てました。そして、その翌年の昭和39年、NHKの朝ドラ「うず潮」でヒロイン林芙美子を演じて大ブレーク。朝ドラのブレーク女優第一号になった林美智子です。40年の大みそかには「紅白歌合戦」の紅組の司会者を務めています。40年代には主演ドラマも多かったのです。平成では三谷幸喜の「十二人の優しい日本人」の裁判員のメンバーの一人として出演しています。

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(私のブログの現在のヘッダーはこの写真です)

宝田明の伯母、乙羽信子淡路恵子は気心の知れた親友同士。

二人とも店の経営者だし、それなりに人生経験も積んでるだろうから性格がサッパリしています。なぜかこの映画で大阪弁をしゃべるのは乙羽信子だけ。大阪が舞台やのに、ほんまに変な映画やわ。

乙羽信子って新藤兼人の脚本や監督の映画に出ると女の情念がほとばしるような役ばかりなのに、そうじゃない時は陽気で明るい女性役が多いような気がします。私が子供の時に「ママ、ちょっと来て」と言うホームドラマでママ役をやってたし。

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宝田明浜美枝の仲を取り持つ役目だが、実は彼女も宝田明に惚れていた。誰にも知られぬつもりなのに、浜美枝にはあっさり見抜かれている。このあたりの描き方も手抜きだから、(なんで乙羽信子が気づかないんだろう)と思った。

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淡路恵子宝田明浜美枝の三人で沖縄観光。守礼の門などが登場します。女優陣はコートを羽織っています。帽子と手袋も。優雅です。

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宝田明が沖縄土産に買ってきた珊瑚のブローチをつける星由里子

4年前、兄を事故で亡くし病気の母を抱えた16歳の娘ができることは金持ち男の世話になること。企業の偉いさんで単身赴任の上原謙に面倒を見てもらっていたのだ。東京に戻ることになった上原謙は手切れ金代わりに家を一軒、星由里子に与えている。その家で病気の母の面倒を見ている由里子。

由里子の過去を由里子の幼馴染の男(藤木悠)から聞かされる宝田明。でもそんな事で気が変わったりしないのだ。(メロドラマの主人公だからね)

由里子の苦労の甲斐なく母親は病状が悪化して亡くなってしまう。

親孝行のためにやったことが無駄に終わった。後悔と我が身の不幸を嘆き、宝田明から逃げるように由里子は引っ越していった。

じゃ、家はどうなるの?彼女の持ち家でしょ。上原謙に返したのかな?

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いったんは宝田明を誘惑しようとしたものの見事に振られ、おまけに志村喬に(宝田とデキた)と偽って、志村の怒りにふれ追い出される淡路恵子。しかし彼女が宝田明と星由里子を沖縄で引き合わせるのだ。淡路恵子、やっぱりいい女。

「親分とは別れるの?」「それが、よりを戻したいって」「出ていけって言ったものの惜しなったんやな」「こっちがお断りって言いたいけど、戻ることにしたわ」

世の中の酸いも甘いも嚙み分けて、どこまでも前向きで明るい年増二人。(二人ともまだ30代だけど)( ̄▽ ̄)

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四人の女優さん、この他にも衣装をとっかえひっかえしてますが、私は上の乙羽信子のワンピースが一番気に入りました。

ちょっと描いてみました。楽しいわ。またやってみよう。

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この映画の最大の欠点は人間が全く描けていないと言う事に尽きる。上原謙人間性を説明できる人いるか?16歳の少女を金で自由にして(淫行、パパ活やん)用がなくなると家を与えて別れて、偶然再会すれば「お母さんは元気? それじゃ」とさらりと挨拶して去っていく。藤木悠は「あいつは一見紳士だけど本当はひどい奴なんだ」って宝田明に言ってるけど、そんなに悪い男じゃないのでは?しかしやったことは淫行…この辺、理解しがたいキャラクターだ。

志村喬にしても九州の大親分って、やくざ? 激情に駆られて淡路恵子を殴ったものの後で「戻ってこい」って、なさけない親父やん。

ベテランの大スター二人を単なる悪役にはできないからか、こんな理解不能な(紳士なのか横暴なのかハレンチなのか)訳の分からんキャラクターに仕立て上げてしまってる。井出俊郎って著名なシナリオライターなんだけどなあ…

それから、当時って、男は一発ぐらいは女を殴っても良い、くらいに考えてる風潮があって、観ていて不愉快だった。藤木悠も自分と星由里子の仲を疑う妻を殴ってる。そりゃ、妻も家出するやろ。

監督は鈴木英夫。近年、再評価されている監督らしい。「その場所に女ありて」と言う映画は観てみたい気もするけど。

確かに見やすい映画ではある。ハッピーエンドでメロドラマの定石を踏まえてはいる。こういう優しい雰囲気の映画は安心して観ていられる。

昭和30年代の大阪のビジネス街や市電も見られるし、(関西人として)風景の懐かしさは堪能できる。

でも、10年後に私が覚えているのは、乙羽信子のドレスだけだわ、きっと。